「まさか……また嘘じゃないだろうな」

「嘘なわけないでしょ。ほら、旅行チケットもちゃんとあるし」

確かに……。
彼女の手にはチケットらしきモノが握られている。

「しかしどうして突然、温泉旅行なんか行くことになったんだ?」

「まぁ~この際細かいことは気にしない、気にしない」

完全に怪しい。
しかもこの手口でいつも騙されているような……。

「……」

「出発は明々後日だから、よろしく、じゃあね~」

「おっおい!待て!!まだ行くとは言ってねぇぞ!」

相変わらず、一方的なんだよなぁ。
明々後日……十二月二十四日か。
待てよ、この日って……


『クリスマス・イヴ』じゃねぇか!!


あいつ……一体何を考えているんだ?
この話の裏にはきっと何かある。


そうだ、こういう時はまずあの人に……、
分からないことがあったらセンセに聞けってな。


「センセ、藤崎先生~」


ドンドンっ!


俺は一階の奥にある翔さんの部屋に向かった。

「うるせ─な!鍵かかってねぇから勝手に入れよ」

「……お邪魔します」

カタカタとパソコンのキーを必死に叩たいている姿。まるで追い詰められた夏休みの宿題に取り組んでいる俺のようだ。

あっ……。
そうか、明日渡す二学期の通知表の。

「何の用だ?二十文字以内で終わる話なら聞いてやるぞ」

「あ、いや……忙しそうなので……また出直して来ます」

そこまで限定されたら話す気にもなれないってもんだぜ。

「もしかして……イヴの温泉の話か?」

楓から聞いたのかな?

「……流石ですね、翔さんなら理由知ってるかな~って思って。教えてくれませんか?何故、温泉に行くのか」

「そんなことか……毎年恒例なんだよ。俺の親父が経営する旅館にイヴの日に行くのがな。でも今年は行けないな」

「行けない?」

「旅館が改装工事してて一時的だが閉鎖してるんだよ」

「じゃ、楓が持っていたあのチケットは一体……」

「楓がどうかしたのか?」

「いっいえ……なんでもないです。お仕事中にすみません、ありがとうございました」

「千晶!」

「?」

「お前……もっと勉強しろよ」

「はい」