なんてこった。

未だかつてこんなに自分が嫌いになったことはなかったのに。情けなくも、楓に三度も騙されまくっている自分自身に腹が立って仕方ない。

コンテストで貰った景品。
『温泉の素詰め合わせ』──。
これの凄いとこはだなぁ~、何と!家に居ながらにして、全国の温泉湯が楽しめるんだ!!

今日は『箱根』にしよう。

って!

ダメだ……一人で頑張って浮かれてみせても虚しいだけだぜ。
俺は湯船に溶けてオレンジ色に染まってゆく『箱根』をじっと見つめる。やがて見た目だけ『箱根』の温泉の湯と化したそれに身体を浸す。

「温泉……行きたいなぁ」

今のこの極限の状態から出た言葉、これこそが本音だったりする。


「千晶~っ!!」


この声は……。背中に寒いモノが走る気がするのは気のせいだろうか。
流石に楓でも風呂の中までは開けて入ってこないだろう。

ガラっ――。

やっぱり俺の考えは『甘い』らしい。

「ここに居たか……」

「ここに居たか……じゃねぇっ!!青春期真っ盛りの神聖なる男子高校生の入浴中を覗くなんてなぁ!!不謹慎だぞっ!!」

「何~が!神聖なる男子高校生よ!!既に女の恰好している時点で不謹慎じゃなくて」

「お前に言われたくないわ!!もう金輪際!俺はお前と関わるのは止めたんだ!あっち行け!しっしっ!!」

「あっ~そっっ!!そんな態度を取るわけ!!私に騙されてばかりで温泉湯の素でしか温泉気分を味わえない可哀想~な千晶君を、せっかく箱根の温泉旅行に招待してあげようって思ったのになぁ~!ああ……残念だ」

『箱根温泉旅行』――?

しかし、これはいつものように罠かもしれない。
安易に話に乗るのは禁物だ。

俺はもう騙されないって決めたんだ!!