「……私たちも行くわよ」

「おうっ!」



奥の部屋へと続いている廊下をひたすら進んで行くと、声が聞こえた。
何を言っているのかまでは聞き取れなかったが、すごく騒がしい。

「茜っ!!」
その大きな声と同時に扉が開く。

出てきたのは、

「お父様!!」
この位置からは茜の父親と母親らしき女性が一人、それと先程の若葉と呼ばれていた女性が見えた。

「お前は自分で何を言っているのか分かっているのか!?」

「勿論ですわ!自分の運命は自分で決める!もう誰の指図も受けない!」

「……」

「会ったこともない人と結婚させるなんてどうかしてる!これが代々伝わるしきたりと言うなら、私が四の五言っても無理なことくらいは承知の上。ならばこんな家、出て行ってやるわよ!」


──パシっ!


それは瞬きする間もない一瞬の出来事だった。

「お父様……」
茜は父親に叩かれた頬に手を当てる。
そこは赤くなって少しだけ手ひらの後が残っていた。

「お前は大馬鹿者だ。千種家に伝わる伝統を守らずしてどうする!そんな奴は生きる価値もない!千種グループと城ケ瀧グループはこれからも仲良くしていかなければならないというのはお前も十分に知っているハズだろう!」

「それでも嫌なものは嫌なの……誰かに言われるままの人生なんてイヤ!運命は自分で切り開くもんなんだからっ!!」

「この分からず屋め!!」

俺は反射的に身体が動いていた。彼女にもう一撃与えようとした父親の右手を思いっきり掴んでいた。

「……こういう場合、どっちが分からず屋なのか、答ははっきりしているハズだぜ、おっさん」

「何だと?」

「詳しい事情はよく分からねぇけど、茜が嫌だって言ってるんだ、大人しく諦めろよ」

「お前には関係ない!口出ししてくるんじゃ……!」

「……俺の握力だったらおっさんの腕折るくらいはできるよ」
掴んでいた腕をさらに強く握って見せた。

「……イテテテッ……おのれ〜!」

「諦める?それとも……」

「きっ貴様!放せ!!」



「そこまでにしておけよ」