「波柴~ぁ!」

なんだ?
教室に戻ると俺を探している人物がいた。

「お前どこ行ってたんだ!」

どこと言われてもなぁ、言えるわけねぇよな。

「……ちょっとトイレに」

「随分長いトイレだな」

アハハ……。

「ってか元はと言えば柚木のやつが俺を」

「モテモテで大変だったみたいだな」

知ってたのか~。それなら……。

「ん?……メモ?」

「頼んだぞ!実行委員!!」

翔に渡された紙はあの例の『買い物リスト』だった。

「……鬼」
俺は一思いにぐしゃぐしゃにして踏んづけてしまいたかったが、そこまでの勇気があるハズもなく。
丁寧に折りたたんで胸のポケットにしまっていた。



「人使いが荒いんだよな、俺は便利屋じゃないっての……ったく」
ぶつぶつ言いながらも俺は上着を脱ぐと、ジャージを頭からかぶった。
今、この状況では文句が言える立場でないことも自分ではよく知ってるつもりだ。

人目を避け裏門からコソコソと抜け商店街へ向かう。これ以上、騒ぎに巻き込まれるのは御免だ。

「千晶?」

門を抜けたところで俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

「翼!」
久しぶりに彼女に会えた気がする。
それだけ今日は一日が長いってことかもしれない。

「どこ行くの?」

「ちょっと、そこのスーパーまで買い出しにな」

「なるほど」

「お前は?」

「私も!部活の出し物で『クレープ屋』やってるんだけど牛乳が足りなくなっちゃって」

「一緒に行くか」

「うんっ!」

ツイてないって思っていたけど、そんなこともないのかもな……。

俺はそっと彼女の手を握った。
翼のぬくもりが……すごく、すごく、

温かくて……、

心が落ち着く。