「ふぅ……巻いたか。俺が何をしたって言うんだよ……ったく早く戻らねぇと、また柚木たちに」
体育館の裏の茂みの中に隠れることで、やっとこの緊急事態を免れることができた。


「見~つけた!」

「どわぁ~っ!!」
いっいつの間に……全く気配を感じなかったぜ。
背後から目隠しをされついつい大声で驚いてしまう。

……『誰』なんだ?

ウェーブかかったふわふわのロングヘアーにくりっとした大きな瞳。
胸のタイの色を見る限りでは三年生のようである。

「もう逃げられなくてよ!大人しく観念しなさい!波柴千晶」

「観念って……ただあいつらが勝手につきまとってきたんだろうがっ!」
どうして俺だけがこんな目に。

「私、あなたに決めたの」

「決めた……?何をだ?」

「私の恋人になれるのよ!光栄に思いなさい」

「……あのなぁ~っ!どいつもこいつも勝手に決めすぎだっての!!俺に選択の自由は無いのかっ!!それにな、こんな恰好してるけど、仮にも俺は女だ!(本当は男だけどこの学園内では女っとことなので)」

「……俺?」

「あ、その普段から自分のことを俺って言ってるもんだから……つい癖で」

「この際、何でもいいわ。とにかく!今はあなたの力が必要なの!」

突然現れ恋人になれと迫る少女。何か訳があるに違いない。


「力か……なってやらないこともないけどな。助けてほしいならそれなりに理由は必要なんじゃないのか」

「ごめんなさい。私としたことが名乗りもせずに。三年C組、名前は千種茜(ちぐさあかね)……」

さっきまでの勢いはどこへやらって感じだな。


「話したくなければ別にいいけど。俺も忙しいんでな!じゃあ!」

「待って!!話すから……聞いて」

躊躇っていた彼女は静かに重い口を開き語り始めた。