「ご機嫌いかがですか、お嬢様」


初めは少し抵抗もあったが、この燕尾服姿にも些か慣れてきてたりもする。
いつものスカートやカツラに比べれば全然マシである。



「しかし忙しいよな~待ってる列も途切れねぇし」

「波柴さんのせいよ」
クラスメイトの柚木歩(ゆずきあゆみ)が裏手にある厨房の中で俺に言ってきた。

「おっ俺……あ、いや私?」

「そう。普段、男子がいないから、校内で話題になってるのよ」

「話題?」
俺が……?どういうことだ?

「その恰好、鏡で見た?」

「見たけど……別に普通だろ」

「はぁぁ~何にも分かってないのね」

「?」

「それならっ!」

彼女は突然、俺の腕をぐっと掴んだ。
そして廊下で解放される。


「皆さん~!波柴千晶はここですよっ~!」


「きゃ──ぁあ~っっ!」

なんだ、なんだ。
何事だ?

「おっおい、柚木!」

「じゃあね~千晶様」


千晶……様?


「千晶様よ~っ!!」
二十人~三十人位の女子が一気に俺の方に向かって走ってくる。

「うぁぁ~一体どうしたって言うんだ!俺が何か悪いことしたのか?」

助けてくれ──っ!殺される~っ!(←大袈裟)

俺は彼女らに捕まらないよう、とにかく全力で走った。