「何やってるんだよ、風邪ひくぞ!」

「分かってるって……」

冷たい海水から上がると濡れた服が肌に纏わり付き、それが潮風で冷やされ余計に寒く感じる。
「車の中に確かタオルがあったな……とにかく早く戻ろう」

「……ああ」

俺は彼女の手をしっかりと握ると伶の後を急いで追った。



「まぁ、お前の気持ちも分からなくないけどな、この時期に海に飛び込んで行くのはどうかと思うぜ」

「春日に……海を感じてほしかったんだ」

「……私に?」

「これが最後なら尚更な」

「千晶……」

「同情とかそんなんじゃなくて春日のためになるのなら、俺は何だってやってやるよ、どんなことだって。これじゃ、理由にならないか?」

「……十分だよ。十分過ぎるくらいお前らしい理由だ」

「千晶先輩……っうっうっ……」

「ほら~泣いてばかりじゃ、せっかくの海に別れを言えなくなるぞ」

少しずつ遠のいていく海の景色。
俺はタオルにくるまり車窓からそれを眺めていた。

「あっ……そうだ」

「はい。これ、紫ちゃんに」

伶はポケットから何かを取り出して助手席に居る彼女に手渡した。

――貝殻?

それは薄いピンク色の貝殻だった。

「さっき浜辺で拾ったんだ。今日の記念に」

「……伶さん……ありがとうございます」

彼女の手中でピンク色が一層鮮やかに輝きを放っていた。

それは――きっと。

地平線に沈む夕日が俺たちを照らしていたからかもしれない。