「ところで春日はどこに行きたい?」

「海」

「……海?今は十月だし海に行ったって泳げないぞ」

「それでもいいの、海が見えれば……お願い」

「とは言ってもなぁ~ここから海までは結構、距離があるし」
電車じゃ時間かかるよな。往復するだけで夜になっちまう。
車が運転できたら一番いいんだろうけど……。



「よっ!千晶!」

どこかで聞いたことのある声──とてもいやな予感がする。
恐る恐る振り向くと……。

「おっお前っ!!」

そう、あの男!藤崎伶が車の運転席の自動窓を開けて手を振っている。

あいつ……運転できるんだ。ってことは俺より一つ年上!?てっきり同じ歳かと。

「お前ら門の前で何イチャついているんだ?……しかも」

「あ、いや、誤解するなよ!!この子はだな……」

「二股か……なかなかやるな、お前」

「ち~が~う!てめぇ!思いっきり誤解してんじゃねぇか!」

「春日紫です!よろしくお願いしますっ!」

「紫ちゃんか~よろしくね!俺は藤崎伶、よかったら俺とデートしない?」

お、お前なぁ~!
この場面でよく口説けるなっ!さすがはナンパ男……。

「でも……私」

「ほら、見ろ!春日が困っているじゃねぇか!」

「海に連れてってください!お願いします!」

って……困ってない?寧ろ乗り気?!

「OK!乗りなよ!」

「駄目だ!こいつには関わらない方がいい!」

「どうして?」

「……どうしてと言われてもだな、その──なんというか、とにかく危険なヤツなんだよ!」

「千晶、その言い草は無いだろ!なんせお前と俺はキスし…」

「うぁぁぁぁぁ~っ!!もうそれ以上言うな!せっかく忘れかけていたのに!」

「じゃあ、商談成立だな!お前も乗れよ。ついでに連れてってやるから」

ついでって言うのも気に入らないが……。おまけは寧ろ、お前の方だってこと……分かってないだろうなぁ。

「はいはい」
とにかく俺は、あの苦い想い出をこれ以上披露されたくない一心で、渋々と後部座席の扉を開け乗り込むことにした。