「間に合ったぁ~」
席に着いて俺はスカートのポケットがやたらに軽いことに気付く。

あれ?定期が……ない。

ポケットに手に入れて確認するがそれらしきものの気配はない。

落とした……?

もしかして──あいつとブツかった時?

ヤバイ……。早く見つけなきゃっ!


この時間の授業はいつも以上に頭に入らなかった。
いや、それどころじゃなかったと言った方が正しいかもしれない。



「えっ……と、確かこの辺りであの子とぶつかって……あれ?おかしいなぁ……」

放課後、そっこー教室を飛び出してきた俺。
もう一度例の場所へ向かうために。

なっ……無い……。

背筋にさっーと冷たいモノが走る。
定期が無いということより、中身を見られて『男』ということがバレるのが俺にとっては一大事なのだ!

これ以上、秘密がバレたくないってに~っ!
俺のバカバカバカ~ぁ!!!
ここで自分を責めてももう何も事態は進展しない。

もしかして……あいつなら何か知ってるかも!

しかし一年生ということしか分からない現時点では、探すことさえも困難な状況……。
せめて名前だけでも聞いておけばよかった──と思ってみても時すでに遅し。


こうなったら……、
とにかく校門の前で待ち伏せして──。
いや、もう帰っているかも?

ど、どうしよぅ~っ!

「波柴千晶……さん?」

「あっ、はいっ」

俺の名前を呼ぶ声。
反射的に返事をして振り向くと……、

さっきの──。

あの子が居た。


「やっぱり来た!」

やっぱり?

「……それってどういう」

「はい、これ!探してたんでしょ!」

……『定期入れ』だぁ~っ!
愛しの定期っ!会いたかったようっ~!

俺は彼女の差し出されたものにすがった。
が、すぐに我に返る。

「まさか……中身見た?」

「勿論!しっかりバッチリ!(ピース)」

ってことは──、

「……俺の秘密も?」

「はいっ!」

少女のこの屈託のない万遍の笑みが俺には怖くて仕方なかった。