好きでいるための『資格』。そんなものいるのだろうか──。自分の気持ちに嘘をついても守りたいモノ……それは──。


「……翼」

「お兄ちゃん……」

「どうして泣いているんだ?」

「あれ?なんでだろ、おかしいよね……涙が……止まらないよぅ」

「無理するな……泣きたい時は泣けばいい」

「うん……」

彼は翼を抱き寄せると静かに涙を流した。
その涙にはいろんな思いが含まれていて……。

キラキラ輝いていた──。



翼とはあれ以来言葉を交わす回数が減った。隣だった席も席替えというクラスのイベントにより、俺たちは見事に端と端、対角線という位置に落ち着いた。


「翼となんかあった?」

「!?」
昼休み、俺は階段の踊り場から窓の外をぼっーと眺めていると、背後から翔に語りかけられた。

「センセ……」

「腑抜けた顔しやがって……何があったのか話してみ」

「翼は今もまだあなたのことが好きなんですよ」

「それは……どうかな?彼女から直接聞いたのか?」

いや……俺の勝手な思い込みで。

「……」

「その分だと聞いてないって感じだな。仕方ねぇな……お前が気付いてないようだから教えてやる。翼が好きなのはお前だよ、千晶」

俺……。
翼が好きなのは……。

『俺』

なのか──?

「でも……俺はあいつには答えられない。俺には……」

「フフフ……」

「?」
笑い?

「楓のことか?それなら気にするな。彼女は芝居してただけだから」

ハイ?芝居?

「じゃ、俺が好きだって言うのは」

「それは『嘘』」

嘘……。
ってことは『偽り』ってことか……。
意味同じだし……って!一人ツッコミしてる場合じゃねぇだろ!

「あの……よく事情が飲み込めないんですけど」

「要するに楓はお前が翼のことでウジウジしているから、自分が好きだと言えば、本当の『愛』に気付いてくれると思ったらしい」

「じゃ、楓と別れたって言うのは……」

「それは本当。でもやっぱり俺には楓しかいないから」

ヨリを戻したってわけかっ!

「……でも彼女には許婚が」

「それなら大丈夫。伶とは先日、婚約解消したから」

……婚約解消?!