「女って分からん」

女装している俺がこんなことを言っても、いまいち説得力に欠けると思うだろうが。

帰宅後、俺はベットに横たわり天井を見上げていた。


『好きだよ、千晶』


楓の言葉が頭から離れなくなっていた。
あいつはどうして俺に……、俺なんかに……。



「千晶、居る?」
扉の外から声が聞こえた。
噂をすればなんとやら……とはよく言ったもんだ。

俺はベットから起きる上がるとドアを開けた。

「楓……」

そこには思った通り彼女が立っていた。帰ってきたばかりらしく制服姿で。

「私のノート返してよ!」

帰ってくるなり第一声がこれかと少しだけがっかりする。

「あ、悪い悪い!」
俺は古典のノートを借りてそのままだったことを思い出した。

「全く!ノート無くて焦っちゃったわよ、借りたらちゃんと返してよね」

「ごめん……ありがと」
ノートを受け取ると彼女は俺の目を真っすぐ見つめていた。

「翔のこと聞いた?」

「ああ……付き合っていたって話だろ、お前から別れたって」

「翼が……翔のこと好きだって知ったのは去年の今頃かな?」

えっ?

「だから別れた……ううん、正確には『別れてあげた』の、翼のために」

そうだったんだ。
俺がイライラしている原因がやっと分かったよ。
翼の──『お兄ちゃん』と呼びながら見せる、あの嬉しそうな笑顔はヤツのことが、
『好き』だから?

いや、『愛してる』いるから……。

それに嫉妬していたんだ。


「お前は今でもあいつのことが好きなのか?」

「私が好きなのは千晶だけ」
彼女は首を横に振りながらそう答えた。

「楓……お前が俺のこと好きなら、俺もお前のこと好きになる」

それが……一番いいんだ。翼にとっても楓にとっても。
俺にとっても……。