「急ではあるが、産休に入られた有馬先生に代わり、今日から二年A組の担任になった藤崎翔(ふじさきしょう)だ。よろしく」

歳は二十五歳、容姿端麗、男子がいない状況に餓えた女子高生のターゲットになること間違いなしの存在とも言えよう。
この二学期からウチの学校に来たらしい。
担当教科は『英語』。
俺の最も嫌いな教科でもある。

しかも、一番最悪なのは……。

「お兄ちゃん!」

翼が声を上げるのも無理はない。そう『藤崎』で嫌な予感はしたんだが。(いや正確には『悪寒』とも言う)
なんとヤツはあの『藤崎伶』の兄貴なのだ!



「そ~言えば……」
俺はこの言いようのない無力感に駆られながら、ふと隣に居るハズの薫が居ないことに気付いた。

どうしたんだろう。

あの日から一週間。
気まずくないと言えば嘘になる。けれど俺は意識しないで接するのに必死になっていた。


「それと……クラスメイトの東雲薫であるが、ご両親の都合でフランスに行くことになった」

フランス?
あいつ……そんなこと一言も。

「皆によろしくと言っていたので笑顔で送り出してやろう!以上でホームルームは終わりだ」


起立、礼。




「波柴!」
HR終了後、藤崎先生に俺だけ呼ばれ廊下の片隅で落ち合う。
なんか悪いことしたっけ?
そんなことを思ってしまう自分が悲しい。

「あ、はい……」

「東雲から手紙を預かっている」

「手紙?」

「それと『ありがとう』って言ってぞ、お前ら幼馴染みだそうじゃないか。友達は大切にしろよ」

──友達……か。

「はい」

渡された手紙は水色の封筒に包まれており表には、

『千晶へ』

と書かれた文字。
心なしか少しだけ曲がって見えるそれを俺はひたすら見つめていた。