これは『夢』ではない。
『夢』ならどうか覚めて頂きたい。

そんな俺の儚い願いは神様に通じることもなく、
むしろあざ笑うかのように、現実として大きくのし掛かるのだった。

薫……本当に薫なのか?
どうやら彼女は俺にまだ気付いていないらしい。

「千晶、どうしたの?顔が真っ青よ」

まずい……これは非常にまずい。
俺がこんな恰好で女子校なんかに居ることがバレたら……。

「そうだな、席は……とりあえず波柴の隣が空いてるからそこでいいかな」

ぎくっ!なんでよりにもよって俺の隣なんだよぅ~っ!
ってか俺の隣以外にも空いてる席あるだろうがっ!!

「波柴?どこかで聞いたことある名字……」

薫は何かを思い出すような仕草で一歩一歩歩き出す。


「まさかねっ!千晶がこんなとこに居るハズ……な」


逃げも隠れもすることができず薫と目が合う俺。


『って……あんた……もしかして千晶っ?!』


自分の椅子に手をかけて彼女は声を上げた。

「……うん」

俺は頷くことしかできなかった。
女装していても分かるやつには分かるんだ。

と言っても薫と俺は幼馴染みってやつで、幼少の頃はイヤでも四六時中一緒に居たわけただから仕方ない。

それともう一つ。

俺はここへ来る前に薫の告白を断った張本人だったりもする。