あれからどのくらい時間が経ったであろう。

「おはよう」

「……っ」

彼が薄っすらと目を開けると楓が隣で座っていた。

「俺……」

「一時間くらいかな。気を失っていたのは。いくら呼んでも起きないんだもん」

「……」

ここに至るまでの記憶を一つ一つ繋いでいくと、さっきの出来事が鮮明に頭の中に蘇ってきた。

─―千晶が『男』であるという事実─―

信じたくなくても『真実』なのである。

ここまでの経緯は、彼が神社の境内にある、桜の木の近くで気を失ってから、楓は目と鼻の先にあるベンチまでは運べたのだが。
そのまま放置するわけにもいかず、彼が目を開けてくれるのを待つしかなかったという。

「あ~あ……夏祭りも終わっちゃたよ」

「……ごめん」

「よし!帰ろうっ!」
楓はピョンとベンチから跳び立った。

「開き直ることも大切だよな」

「えっ?」
楓には彼が何を言ったのかよく聞き取れなかったが、伶の気持ちは分かっているつもりだったから。今は敢えてそれを聞き返すことはしなかった。