「待ちなさい~クリスっ!!」


そんな時だった。奥の部屋の扉が開いたと思ったら、一人の少女がこちらに向かって突進してきた。彼女の視線の先には真っ黒い猫が一匹、猛ダッシュで俺の方に走ってくる。
それを受け止めようと構えてみせたが見事にかわされてしまった。

「わっ……ちょっ……」

「どっどいて~っ!!きゃあ~っ!」


ドンっっっ!!


「イテテ……ったくなんだよ」
猫には逃げられるし少女には突撃されるし初日からツイてない。
今日は『厄日』かっ!

「もうっっ!!なんなのよぅぅ~」

「それはこっちのセリフだ!!」

クリスは俺たちの光景をあざ笑うかのように毛繕いをしながらこちらを見ている。まるで『バカね、あんたたち』とでも言ってるかのようだ。

「翼様、お屋敷の中ではお静かにと常々申しているハズですが……」

「だって……クリスが私の言うこと聞かないんですもの」

パンパンとスカートに付いた埃を払いのけ、千晶と目が合うと彼女はぷいっと横を向いた。
こっこいっぅぅぅ~っっ!!

「榊(さかき)、こちらは?」

「前にお話した『波柴千晶様』でございます。今日からここで共に生活することになりました」

「つー訳だから!よろしく」

「あなたが……?御祖父様のお話と違うじゃないっ。男なら尚更だわ!私に気安く話かけないで!!」

なんなんだよ~この態度はっっ!!
俺がなんかしたのか?えっ!そうなのか?

「初対面のヤツに向かってその態度は無いんじゃないのか」

「お生憎さま。いいことっ!私の半径三メートル以内に近づかないで頂戴っ!!このケダモノ」

ケ……ケダモノぅ?!

彼女はプンとそっぽを向くと颯爽と去ってゆく。
俺は嫌われている理由も分からずただただ唖然とするばかり。

……この最悪とも言える状況が、俺と桐生翼(きりゅうつばさ)の最初の出会いとなるのであった。