それから春が訪れた。
俺も無事に二年生なったわけであるが、幸にも不幸にもまた翼と一緒のクラス(二年A組)になってしまった。
その後特に何事もなく日々は過ぎていき……。

そして……、

一学期の期末試験を無事に乗り越え、やっと手に入れた『夏休み』!!

この日をどんなに待ち焦がれていたことかぁ~っ!

しかし~っっ!!今年の俺には課せられた『試練』がある。
皆様もご存じの通り休みの間でも、俺は『男』とバレないように生活しなくてはいけないのだっ!
学校には行かないと言えども女装しなくていいという訳ではない。

まぁ……基本的にはしなくていいのだが、外出しないわけにもいくまい。
何故なら夏はイベントごとも多いからだ!プールや海や山、花火大会に夏祭り。
思いつくだけでも結構ある。
だが!その安易な『外出』こそが落とし穴なのだ。

いつどこに同じ学校のヤツが居るとも限らない……。
俺はこれから周囲の目を気にしながら生きていかなければならないのだ。
やっぱ翼や楓と出掛ける時は女装しなきゃだよな~。(その方が自然だと思うし)

あっ、でも二人の従兄で夏休みだから遊びに来ているってことにしておけばいいのか……。
いずれにしてもめんどくさいことには変わらないな。

今更だけど、俺はとんでもないことを引き受けたのかもしれない。

「いい方法ねぇかなぁ~」
千晶は自分の部屋で壁に向かってぼやいた。


コンコン。


ノックをする音が二回。
こういう時大抵現れるのが……。

『楓』なんだよなぁ。

扉を開けるとそこには思った通りの彼女が居た。
どこから走ってきたのか分からないが息を切らしている。

「先に言っておくが外出ならお断りだぞ」

「そんなこと言っちゃって。外はいい天気なのに~こんなとこで、うだうだしていたらもやしっ子になっちゃうわよ」

「いいんだよ。俺はもやしでもなんでも」

「今日はね、どうしても行かなきゃいけないとこがあるのっ!だから来てっ!ねっ!!」

「……行かなきゃいけないとこ?」

今日は八月八日。
とても外は日射しが強く、うだるような暑さ。
セミがうるさく鳴いていたのがとても印象的だった。