二月十四日。
俺はこの日が一番嫌いだ。世の中は『愛』だの『恋』だの言って浮かれている奴らばかり。別にバレンタインデーだからという訳ではない。
そんなものは眼中にない。

俺にとってはもっともっと大切な『特別な日』なんだ……。


「すげ~家!お袋がこんな金持ちのお嬢様だったなんて」


どこぞのテレビで見たことあるような広い庭、大きな屋敷。
もちろんお決まりの犬や猫までいる。

今日から俺はこの家で暫く居候させてもらうのだ。
弱冠十六歳でありながら実は『天涯孤独』の身だったりする。

親父とお袋は去年の今日……世の中流に言うとこの『バレンタインデー』の日に交通事故であの世に逝っちまった。
俺を引き取ってくれたばあちゃんも三日前に親父とお袋の元へと旅立った。
まぁ、そんなわけで……。

お袋の方のじいちゃんの家に行くことになったのだが。
……来てみてビックリとはまさにこのこと。

「お世話になります。波柴千晶(はしばちあき)です」
インターホン越しに喋る仕草はなんだか味気ない。

お袋は親父と駆け落ちして勘当されたらしく、俺がここに来るのは生まれて初めてだ。
気まずくないと言えば嘘になる。
今までに嘗てないほどここ一番に緊張している。

玄関の扉が開くと、執事らしきおっさんが出迎えてくれた。

「お待ちしておりました。千晶様」

……千晶『様』……か。聞き慣れない呼び方に違和感を感じながらも、俺は少し照れながらはにかんだ。『様』を付けられて悪い気分がするハズもあるまい。

「あっ……いやその」
どうしたらいいのか分からなくてどきまぎしてしまう。