「どこへ行ってたの? 」
敦子が正和のスーツケースを見て尋ねた。

「仕事でドイツの方にね。敦子はどこから?」
「私はニューヨーク」

「仕事で・・・・・・? 」

「半分仕事で、半分遊びかな・・・・・・」
敦子があっけなく答えた。

「ねぇ、今はどこに住んでいるの? 」

「今は、福岡だよ。実家の家業を継いでいる。どうも九州の方は大雨で飛行機が飛ばないらしい。今夜は、こっちに泊まって帰ろうと思う」

「そう。それで泊まる所は決まってるの? 」
「どこか、この周辺のホテルを予約しおうと思っているんだ」

「それじゃ・・・・・・都内まで来ない?」
敦子が笑顔で尋ねた。

「せっかく、久しぶりに会えたんだから、食事でも、どう? 」
「うん・・・・・・・そうだな」

正和は少し返事に困った。
正直なところ、昔の恋人の敦子とは、あまりいい別れ方をしていなかった。

そのことが心にひっかかっていた。


「何か用事でもあるの? それとも・・・・・・昔の恋人と会うことに問題でもある? 」
敦子は、正和の気持ちを探るように尋ねた。

「そういう訳じゃないけど・・・・・・」
正和は、どっちつかずの返事をした。

「じゃ、行きましょう」
敦子が積極的に誘った。