咄嗟に伸ばした手はかわされて、俺を見下げるヒロヤくんはニタニタと笑った。

「ほ~ら、やっぱり外れてなかった」

ヒラヒラと振られるそれは、俺の大学の学生書。

…思いっきり、女って書かれてる。
い、言い訳出来ない…。

さぁーっと青ざめる俺を見て、ヒロヤくんは意地悪な笑みを零した。

「ショウ、性別隠して生活してんの?」
「……」
「ふ~ん、隠してんだぁ」
「…アンタには関係無い」
「あるよ?このこと、バラして欲しくなかったら…」

俺と、付き合って?

そう来るだろうと思っていた通りの事を言われて
俺は呆れたが、溜め息も出なかった。

「い…」
「嫌だって言わせない。そう言ったら俺はショウの秘密を言いふらす」
「……」

普通の人なら「勝手にすればいい」って言えるはず。
でも、俺は……まだ、怖いから。

「形勢逆転だな、ショウ。言いふらされたくなかったら…」
「…分かりましたよ」

ドスの利いた低い声で言えば、満足した笑み。
乱暴に学生書を奪い返すと、手を差し出された。

「…何」
「携帯♪」

本当は渡したくなんてなかったけど、今は刃向ったら何をされるか分からない。
俺はまた、乱暴にその手の上に携帯を置いた。
ポチポチとボタンを押して、携帯同士を向かわせる。

あ~、アドレス交換ね。
消してやりてぇ……。

ほいっ、と携帯を返されて、俺はジーパンの後ろポケットにぐいっと押し込んだ。
すると、右手が急に軽くなった。

「ちょっと、何買い物袋とってんの…」
「家何処?」

…答えになってないし。

「いいよ、自分でこのくらい持って帰れる」

俺はヒロヤくんから荷物を奪い取って、スタスタと歩いた。