だって、あの黒スーツの小父さんの声、怒った感じとか…そんなのじゃなかった。
なんか、心配している様な感じ?



『この人を御存知ないかな?』



…あ、あれ?



『何で女装してんの?』



何か…、引っ掛かる。



『秘密♪』



俺、アキのこと…
出会うよりずっと前から、知ってないか?

何時だろ、大学入試の前くらいに…



『ちょっと、相乃見て見て!』
『何、母さん…』
『相乃が受験する大学、あの―――……』



あの―――…、何だっけ。

あぁー…ッ!!肝心なトコ思い出せない。

ふと前を見れば、アキが俺を待つ姿が見えた。
いろいろとスッキリしなくて、空を見上げればスッキリとした快晴。

…まぁ、どうでもいいか。
アキがあまり触れて欲しくない事かもしれないし、俺がどうこう言う筋合い無いし。
それに10日越しのアキとの時間だから、楽しまないとな。

そう思って、俺はアキとの時間に集中した。
いろんな店回って、結構遅くなったけど、新しくマグカップを買って。
アキも買ったけど、もちろんお揃いのものは買わせなかった。

ハズなのに……
その日の夜、俺は食器棚を見て固まった。

「…あ、アキさん?これは、何…?」

俺の言葉に、アキは笑って言った。

「マグカップだろ。見りゃ分かるっしょ」
「…問題はそこじゃないですよ」
「じゃあ、何ですか~?」
「…何でお揃いの買ってるんですか?」

色違いだけど。
でもヤダぁ!
……いつ買う暇あったんだよ…。

俺が買ったのと違うのを選んだ様に見せかけたり、アキは他のを買う様に仄めかしたりしたのに…。
アキは食器棚からマグカップを取り出して、優しく撫でた。
そして意地悪な満面の笑み。

「いいねぇ~、お揃い♪」

俺はやっぱりこれからも…

「な、ショーォ☆」

コイツに振り回されていくんだろうな…。