相合傘




朝食を食べ終えて、俺達は適当に支度をした後、部屋を出た。
ガチャリと部屋にしっかり鍵を掛けて、アキを振り返った。

そうだ、忘れるところだった。

「手、出して」
「あ?」

生半可な返事をしながらもズイッと出さるた手。
俺はその手首を握って、掌に銀の塊をそっと落とした。

「…コレ、オレに渡していていいのか?」

手に乗せられた俺の部屋の鍵をしばらく見つめた後、アキは俺を見て言った。
ゆらりと動いたその瞳は、動揺に似たアキの感情を俺に見せた。

「うん、いいよ」

だって、インターホンの乱鳴が部屋に響くより、鍵の開く音の方がマシだよ。
そう言って笑えば、アキは何も言わずその鍵をキーフックに付けて、ポケットに突っ込んだ。
 
昨日、アキは言ったね。

『オレに触れられていた時、怖かっただろ』

その時のアキは、俺の顔を見ようとしなかった。
『ゴメンな』

そう、俺に謝ってるくせに。
それでもコッチを見ようとしなかった。

俺は何も言えなかったけど、ゴメンって言わなくちゃいけないのは俺の方だったと思う。
俺に変な偏見があるせいで、本当はいつも気を使ってくれていたんだろう。
それが元凶になってしまったのが、アキと俺が離れた約10日間のことだ。

もしかしたら、嫌な思いをしたのは俺だけじゃないかもしれない。
アキがどんな思いをしてきたかは分からないけど、少しは胸を痛めたかもしれない。
 
本当に謝らないといけないのは、俺の方。
感謝しないといけないのも、俺の方。



「…ありがとう」



ぽそりとその後ろ姿に呟いて、振り返るその顔は、やっぱり何のことか分かってない顔。

「ぇ、何て?」
「ううん、何でも」

何でもない、何でもないけどさ…



「…アキ、何でその格好に着替えたの?」