俺は知らないのに、行き成り傘貸してって言うし。
その次の日には、また行き成り朝食食べさせてって言って、部屋に乗り込んでくるし。
その日からずーっと、朝と晩はうちにご飯食べにくるし。
勝手に部屋の合鍵作るし。
俺を『男性恐怖症』とか、ワケの分かんない症状にするし。
…まぁ、それは間違ってるとは言い切れないか……。
自分勝手でムカつく。
ムカつくけど…、いざ、いなくなったら本当はちょっと寂しかったんだ。
「人のモノに手ぇ出さないでよ」
「…ぁ、アキ……」
呼んだ名前は、途中で途切れてしまって、擦れていた。
肩に掛けられているその手に、一層力がこもった。
ふわりと吹いた風は優しいけど、生暖かくて。
それは“アキちゃん”の髪を靡かせて、俺の首を擽った。
「へー、じゃ、君が彼女っていう証拠は?」
確かに、普通だったら俺くらいの身長の人が、こんなデカイ人を彼女にするわけがない。
…“アキちゃん”、ちょっとこれは無理があったんじゃねぇ?
すると、後ろで溜め息が聞こえた。
「ショウ」
名前を呼ばれるのと同時に、ぐるりと体を半回転された。
後ろを向いた瞬間、近づいてくるその顔。
俺は思わず、ぎゅっと目を瞑った。
「ん…っ」
時が止まって3秒。
恐る恐る顔を上げれば、俺の後ろに立つヒロヤくんに笑顔を向けた“アキちゃん”が。
「どう?今のが証拠」
意地悪な笑みを浮かべたその顔は…悪魔の様だ。
…こっ、コイツ、明らかに今の状況楽しんでる。
カーッと顔が熱くなって、俺は慌てたように俯いた。
「さ~て、帰りましょ」

