優奈は俺の姿を見るなり、駆け寄ってきて俺の影に隠れた。

「嫌だって言ってるのに、アイツ私をどこかに連れて行こうとしてきたのッ」
「何だよ、ずっとそいつの傍にいたけど…、そいつがお持ち帰りすんの?」
「なわけねぇだろ。お前、優奈を無理矢理連れ去ろうとしたのか?」
「いいだろ、別に。ああいう場に来ているという事はそういう事なんだろうし」
「ソレ、勝手な解釈よ!」

するとヒロヤくんは俺の後ろに隠れている優奈に手を伸ばした。

「ほら、来い」
「っ、痛ッ!」

俺は咄嗟にヒロヤくんの手に手を掛けて、ぐっと力を入れた。
鋭い目付きで睨んでくるその目。
とにかく優奈を守らなくちゃ。
それで頭がいっぱいで、この時ばかりは『男性恐怖症』だって言う事を忘れた。

「邪魔だ、離せッ!」

逆に手を引っ張られて、俺はヒロヤくんの胸にぶつかった。

「…あ?何だ、お前」

懐に入ったところで、俺はやっと『男性恐怖症』というものの、恐怖を感じ出した。
…な、なんかヤバい?

「お前、男のくせに力なくね?はは、女っぽいのは見た目だけじゃねぇのか」

ドンッと体を押されて、俺はその場に倒れ込んだ。

「ッ!!」

その時、地面に落ちていた透明なガラスの破片で、左の掌を切ってしまった。
それを見たヒロヤくんは動揺することもなく、構わず俺に跨ってきた。
一気に体の隅から隅までに行き渡る恐怖。それは細胞の一つ一つを犯して、俺から自由を奪って…。
ヒロヤくんはそんな俺に、一撃を与えようと拳を振り上げた。

「止めてッ!!」

優奈の悲鳴に近い叫び声が響いた時、ガツンと聞こえる音。



……あ、あれ?痛くない?

倒れている俺の隣に、ドサリと横たわるヒロヤくん。

「だ、大丈夫!?」

そして、さっきまでソファーにダラリと寝ころんでいたジュンと、アキラくんの姿が目に入った。