「そんな顔しなくても大丈夫だよ?」
そんな声でさえ、怖いと思えて……、ここまで、俺は男が怖いと思っているんだなって実感した。
その時、ドゴッと何かが何かとぶつかった音が、静かな空間に響いた。
「……アキ、ちゃん?」
思い切り男の人を殴り飛ばしたアキちゃんは、コッチに鋭い視線を向けていた。
殴られた男の人はその場で蹲って、動けないみたいだ。
「…お、お前は…ッ!!」
「な、何だ!?」
「…何だ?それはコッチのセリフ。ショウに触るな、さっさとその汚ぇ手を引っ込めな」
…な、何?こんなアキちゃん、…見たことない。
すると前にいた男の人が、アキちゃんに向かって行った。
アキちゃんは冷たい表情でその人に構わず顔面パンチ。
そして、どんどん俺達の方に近づいてきて、俺の腰に手を回している人を俺から力尽くで引き剥がすと、腹部に蹴りを入れた。
ふぅ、と大きく息を吐いて、落とされた2つの買い物袋を手に取る。
卵の入った方の袋を覗いて、残念そうな顔をしたアキちゃんは、さっきの様な冷たい表情ではなくて、いつもの顔で。
ああ、卵いくつか割れちゃってる。と、俺に笑いかけた。
「ゴメン、怖い思いさせて」
「…いや」
「守るって言ったのに…」
いろいろと、突然の事で頭が上手くついていかない俺に、アキちゃんは笑顔で言った。
「さ、帰ろう」
そう言って自然と取られた俺の手は、俺より一回り大きいアキちゃんの手の中にすっぽりと納まった。

