電車から降りて、西京駅の近くのスーパーで、冷やし中華に使う食材を買った。
アキちゃんは俺と一緒に買い物する時、いつも当たり前の様に重たいものを持ってくれる。
しかも、軽々と。
「…何か、ムカつく」
「なにがー?」
そうやって人をからかっている様な口調、俺が当たり前に出来ないような事を当たり前にするところ、何気に人を気遣えるところ。
それが結構ムカつくけど、それでも、やっぱり憎めない。
電灯がチカチカと瞬きを繰り返す、薄暗い閑静な住宅街。
2人で歩いていると、前方に男の人が3人、道の端に座って、煙草を吸っていた。
驚きと、ちょっとした恐怖でドクンと心臓が脈打つ。
うわぁ、良かったぁ、アキちゃんがいて。
その人たちの前を素通りして、俺は安心して息を吐いた時だった。
「ちょっとそこのお嬢さ~ん」
吸っている煙草を手にしたまま、こちらに手を振ってくる。
俺は思わずアキちゃんの影に隠れた。
「ね、今から遊ばない?」
その中の一人がアキちゃんの腕を掴んで、自分の方に向かせた。
「あ~、今から大事な大事な計画があるんで」
表情は俺といた時と変わらないまま、微笑みながらアキちゃんは断った。
「ちょっとだけでいいんだよ、ちょっとだけで」
「な?遊ぼうゼ」
ぐいっとアキちゃんが引っ張られると、アキちゃんの手から買い物袋が落ち、アキちゃんの服を掴んでいた俺の手が離れた。
「ね、そっちの彼女もさ、遊ぼう?」
強く掴まれた腕。
振り解こうとしても解けなくて、俺は恐怖で震えた。
するりと買い物袋が手から抜け落ち、グシャリと地面に落ちた。
…ぁ、卵が割れたかも。
頭の片隅でそう思うけど、そんな事より、恐怖がどんどん俺の体を支配していく。
ぐるりと腰に回されるその腕。
少しずつ、でも確実に。
視界がぼやけてきた。

