家から徒歩約15分。
西京駅の改札口の前で、俺はどうしようもないドキドキと戦っていた。
「そんなに緊張しなくていいって」
「……分かってる」
アキちゃんが話しかけてきても、返す返事は短く、目線は地面を泳ぐばかり。
するとアキちゃんは一つ溜め息を付いて、改札口を通って行った。
『早く』と言う様に、手招きをする姿。
俺は微かに震える手で改札に切符を通した。
「大丈夫、大丈夫」
アキちゃんは電車に乗るまで、ずっと呪文の様にそう繰り返していた。
安心出来るとはいえないけど、それによって俺は少しだけ落ち着いた様な気がした。
そして、乗り込んだ電車が動き出す。
通勤・通学時間の今は、予想通りの満員。
だから時間を少しずらそうって言ったのに、アキちゃんは聞き入れてくれなかった。
俺達がいるのは出入り口のところで、入口に背中を任せている俺を守る様に、アキちゃんは俺と向かい合って、手を俺の頭の横に置いていた。
「ね、こうやって乗れば大丈夫!」
得意げに笑ってみせるその笑顔は、何だか憎めないもの。
そうだね、こうやって乗れば大丈夫。
電車乗る時は…、アキちゃんと乗ろうかな。
その時、アキちゃんが眉を顰めた。
「…ぅゎ!」
周りが騒がしいせいで、微かにしか聞こえなかったけど、アキちゃんは嫌そうな声を上げた。
「どうした?」
そう言えば、俺の頭の横にあった手が動いて、その人差し指が唇に当てられた。
喋らないで、と。
俺は首を傾げ、ちょっと視線を下に下ろした。
すると……
「…ぃ!?」

