みんながみんな、痴漢やってくるわけじゃない。
そんなこと許さない男の人だっているだろう。
でも、そういう人は誰だとか、見ただけでは分からない。

だから怖くて、俺は…

「男っぽい格好してたら、男って思われて、痴漢になんてあわないと思ったんだ。その出来事から一年くらい経つけど…、やっぱり、男が後ろにいたりとか、男と2人きりになったりしたら怖いし…。男っぽい格好したって、電車には乗れない…」

ああ、大丈夫な人と、そうでない人を見分けられるメガネでもあればいいのに。
そう思った事が、何百回、何千回あることやら……。

「…トラウマに、なってんだ」
「うん、…そうだね」

と、薄く笑って返せば一瞬だけ寂しそうな顔をしたアキちゃん。
俺には、何でそんな顔をしたかは分からなかった。

「…ショウ、怖くない?」
「何が?」

問い掛ければ、アキちゃんは自分を指差した。

「なんで?アキちゃんは女の子じゃん。怖くなんてない」

そう言えば、少し驚いた顔をして、困った様に笑った。
そして、俺の隣に来た。

膝の上に置いていた俺の両手をそっと持ち上げられ、その両手で俺の両手を優しく包んだ。
俺より背が高いせいか、アキちゃんの手は俺の手よりも結構大きくて、しっかりしていた。
ひんやりとしたその手が、俺の温かい手と重なって、アキちゃんにも、俺にも無い温度が生まれる。

「アキちゃん…、どうした?」

包まれた手の向こう、ジィっと手を見つめたまま、アキちゃんは口を開いた。

「……るよ」
「え…?」
「守るって言ってんの!!」
「…はぃ?」