本当は、アキちゃんの発言によって、忘れかけていた嫌な過去を思い出してしまった。
でも、その事を言ってしまうとアキちゃんの気を悪くしてしまいそうだったから、俺は首を振った。
軽く俯けば、ズズズとアキちゃんはグラスの中の水を啜った。

「…あ~、あのさ、アキちゃんはさ、本当は女の子なのに、男っぽく振る舞っている俺のことを、気持ち悪いとか思わねぇの?」
「なんで?別にそんなの気にしないけど」

きょとんとした顔で、アキちゃんはパチパチと2、3回瞬きをした。

「口が悪いのは元々なんだけど……、前は、普通にスカート穿いてたんだ」
「お、そうなんだ」
「ピンクとか、フリフリがついたりはしていないけど、女の子だっていう服、着ていた」
「何で今着ないの?」

アキちゃんは手を組んで、真剣な眼差しで見詰めてきた。
どこか期待している様な、キラキラとした目。
どこかで訊くか訊かないか迷っている様な、ゆらゆらとした目。
一方の俺も、話すか話さまいか悩んで、しばらく黙り込んでいると、アキちゃんは俺の顔を覗き込みながら言った。

「…言い難い事?」
「うん、…ちょっとな」

そんな曖昧な返事にアキちゃんは、組んでいた手を組みかえて、俺と同じ様に軽く俯いた。
眉間に皺を寄せて、う~と小さく唸る。










「…前に、痴漢にあったんだ」