キッチンから机の前できちんと正座して御飯を食べているアキちゃんを覗けば、急に動きがぴたりと止まった。
かと思えば、ドンドンと自分の胸を叩きながら、何か必死に唸った。
「あ~はいはい、水ね。ったく、そんなに慌てて食べるから」
ひんやりとした水を注いだグラスを手渡せば、アキちゃんは水がグラスから零れそうなほどの勢いで、俺からそれを奪った。
中の水を一気に飲み干して、はぁ…と息を漏らす。
「何であんなところで倒れてたんだ?」
「あ~、行き倒れってヤツだよ」
「…い、行き倒れ?」
「いやぁ~、昨日の夜からさ、な~んにも食べてなくて、ホント死にそうでさぁ」
「…は?」
たったそれだけで死にそうになるんですか?とは言わず。
我慢我慢。
「でね、ふらふらになりながら、朝御飯の為に、そして自分自身の命の為に、最後の力を振り絞ってショウの家に来たんだ!!」
……最後の力ですか…。
「そしたらさ、ちょうど鍵差すところで力尽きちゃってね~。でも、もうすぐ飯にありつけるのに、倒れてなるものかぁ!!って思って、ドアの何処でもいいから掴まろうとしたんだ。でも、それどころか体はずるずると地について、しかも鍵を持っていた手がポストに引っ掛かって、しかもしかもポストの中に鍵が入っちゃったんだよ…」
どよ~んと沈んでみせるアキちゃん。
俺は今、きっと目を丸くしているだろう。
「え、じゃぁ…、この鍵、俺に返したってわけじゃないんだ」
「何で返さないといけないんだよ、それがないと、食にありつけないんだから」
ちょっと、…いや、もしかしたら想像以上に安心したかも。
女だけど男っぽく振舞っている俺のことを気持ち悪いと思って、もうこんなヤツと付き合ってらんない~みたいな感じで、鍵を返してきたのかと思っていたから。
なんだ、コレ。想像以上に嬉しいかも。

