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「――ん」


「――君」



「柴崎君?」


「っ!」

現実に呼び戻された感覚がして、振り返った
すると、黒い髪をポニーテールにした――花田だ
花田が俺を見上げていた

「…御免。何か俺に言った?」
「本落としたよー」

何時ものゆるい口調で、文庫本を差し出した
俺はそれをゆっくり受け取りながら、花田を見た
何時もと同じ―変わる訳が無いか

「有り難う…気付かなかった」
「いいよー…うわぁ、柴崎君、こんな文字小さい本読んでるの~?凄い読書家ー」
「ああ、まぁ…」

俺の本をペラペラとめくり、大して驚いた様子も見せずに言った
花田は笑みを絶やさず俺の隣を歩き出した

「…柴崎君、どこ受けるのー?」
「…ああ、大学?」
「うん」
「まぁ…T大の、法学部…かな。それか海外―」
「…あたしもT大ー。学部は経済学部だけどねー。海外ならO大かなー」
「O大か…花田だったら行けると思う」
「そう?ありがとー。でも、T大になりそうだから、よろしくねー。先週のテスト、どうだったー?」
「花田は?」
「うーん。午前中に全教科帰ってくるから、また見せっこしよー」
「分かった」

進路の話を終えると、花田は手をヒラヒラ振って俺から離れていった