ボケッとしていたわけではなかった。
かといって、神経を研ぎ澄ませていたわけでもなかったのだが、要は不意討ちだったのだ。

南署に半分怪しい垂れ込み電話が入って、たまたま暇をもて余していたあたしと、何かの用事が終わって戻って来た大山先輩が、課長に捕まって捜査しに来た帰り際の出来事だった。

「やっぱり何にもありませんでしたねぇ」

一通り薄暗いガランとした倉庫を一週して、南署に、異常無しの報告をしようと足を覆面車に向けた時の出来事だった。

ホントに突然何処から現れたのかさえ未だに分からない。

「うらぁ~!死ねやぁ~!!」

余りの突然で、逃げることも出来ずに、とっさに顔を両腕で防御し、右肩に強打をあびた。

あたしは、そのまま転がり崩れ落ちた。

「欄っ!」

大山先輩の声が耳に響いたけど、あまりの痛さに声が出せなかった。

大山先輩は、突然襲ってきた男を殴り倒した。

男はそのまま大の字に倒れた。

「欄っ!大丈夫か!しっかりしろ!どこやられた!?おい、欄っ!」


せ、先輩(>_<)


そんなに揺らされたら、余計痛いです(:_;)


「だ、大丈夫、です」

 なんとか、声を出した。

「何者、ですか?あいつ」

 と、言って、男が倒れた場所を見ようと、目を開けた時だった。

 男が、大山先輩の真後ろに立っていたのだ。

 鼻血を垂らして、右手を高く上げ、その手には、さっきあたしを殴った木刀が握り締められていた。


!!!!!!!!!!


「大山先輩っ!!」

 気が付いた時には遅かったのだ。

 大山先輩を、突き飛ばすことも出来なかった。

 男の木刀は、大山先輩の後頭部に勢いよく、降り下ろされた。

「うぁっ!」

 大山先輩は、体をのけ反らせたが、次の瞬間に、あたしの上に四つん這いに覆い被さってきた。

「大山先輩っ!」

 大山先輩の苦痛に歪んだ表情が見えた。

「どけやぁ!こらぁ!!殺したるわぁ!!」

 男はなおも、大山先輩目掛けて木刀を降り下ろした。

「先輩っ!」