気づけば、あなたが

「卒業生、入場!」


講堂の中は拍手の音が響き渡った。


次々と卒業生が入って行く。


入場の際に杏と陽介は、隣同士並んでしまう。



杏は一瞬だけ
陽介の横顔を見た。



そして・・・

また前を向いた。


言葉が出なかった。



何を言えば良かったのだろう?


一言、


「陽介!」と笑顔で言えば良かったのか


杏は涙をこらえながら、自分の席まで歩いた。



男子は前の席に座った。


杏は陽介の大きな後ろ姿を見つめた。




最後のグラスの入場が終わり、司会の先生が式の進行を始めた。





そして

「卒業生、卒業証書授与」




長い沈黙が始まる。




杏は、卒業生が合唱する時の指揮者だった。



こんな悲しみの中で指揮が出来るのだろうか?


いつになく動揺している。




落ち着かなきゃ・・・


自分自身に

そう言い聞かせていた。




そして一方の美波も何故か緊張の面もちだった。