一体、僕が兄のふりをした事に、何の意味があったんだろうか…



いたずらに、アコさんに恋心を抱かせただけだ。



過去を振り返り、僕は頭をふった。



リコさんと海岸を歩きながら、僕等はそれぞれの過去を思い出していた。



記憶は傷付いた心を何度でもえぐった。



血は流れ続けていた。



砂浜は永遠に続く天国への道のような気がした。



僕は記憶を封印し、リコさんに話しかけた。



「頭…なんでそんな短いんですか」



「これ?あぁ、亜子がな、抗がん剤治療で髪抜けるって泣いたから…先にハゲになってやったよ」



リコさんの男前ぶりに僕は驚き、じっとその横顔を見つめた。



きれい…だ。



「なんだよ、あんま見んなよ」



ぶっきらぼうだがこの人は本当に本当に心がきれいだ。



晋也兄ぃと似てる…



「なあタクヤ、悪かったな、花束とか…いろいろ」



「いえ」



「わたしさ、亜子にちゃんと恋して欲しいんだよ」



「え?」



「あいつ、胸の事気にしてきっとこれから恋とか、出来ないとか言い出すからさ…」



「ああ…」



「でもなんかお前どう見ても大学生じゃなかったし、それに…」



「それに…?」



「いや、なんでもない」



「ともかく、すまん」



「いえ、全然僕こそ、兄のふりしてすみませんでした」



二人は無言で見つめ合った。



お互いの傷口をしっかりと確認し合うかのように…



リコさんはまだ僕の手を握っていた。