アコさんの腫瘍はかなり大きく、リンパ節への転移も確実であろう、とゆうことがわかった。


アコさんはそれまで勤めていた会社を辞めた。


同僚の彼氏にはお願いして別れてもらった。


「わたし、あなたに優しくする自信ないのよ、たぶん八つ当たりしちゃう…そんなとこみせたくないの」


とアコさんは言った。


彼氏は、そんな事は気にしない、と何度も言ってくれた…


でも彼の目に同情の色が見て取れると、アコさんはますます頑なにお付き合いを断った。


たぶん怖かったんだ。


先に言わなければ…


胸を全て切り取った後、わたしはどんな精神状態になるかわからない…。


そんな姿を見せたくはなかった。


それにリコがいてくれる限り、孤独ではない。


アコさんはすでに、死まで想像していたんだろう。


その時に彼氏がいたら…


彼女はそうゆう人だ。


それ以来、アコさんは検査がない日は毎日海へいった。


水着を着たかったのだ。


ちょうど夏も終わりかけの頃で、人も少なかった。


テトラポッドに登り、ただじっと思いを海に投影していた…


朝の真っ白な光も、夜の暗闇も、アコには同じに感じた。


何も見えない。


見えるのは、動揺する自分の心ばかりだった。



「アコ、風邪引くぞ」


アコがそうやって海辺にいるとき、リコは決まって向かえにきてくれた。


リコがいなければ…


わたしはきっと人魚姫のように泡になってとけていただろう…この海の深い静寂の中で。