「ヤバッ!」
目の前の松永が小さく叫んだと思ったら、微かに聞こえる教師の声。
この宿泊行事の間中、男子と女子の部屋の行き来は勿論禁止。
例えそれが部屋ではなく、
こんな場所でも、
厳しい処分がある事くらいは俺にでもわかる。
ネクタイひとつで注意されるような学校やからな。
「松永、取り合えず上」
そう階段を上ると
「え!? でも上からも先生の声しない!?」
慌てる松永。
「上のんは次は1階やろ。だから2階が安全やと思う」
その瞬間、俺の後ろにおった松永が俺よりも先に階段を駆け上がった。
女って……なんかすげぇなぁ。
その背中を見て苦笑いを零してしまった俺。
「神楽君! 早く!」
「え? あぁ……」
そう言われるがまま、俺もあがってしまった階段。
俺はこのまま部屋に戻れば良かった。
そう思ったのは2階に着くか着けへんかの時で。
階段をあがった事に後悔したのは、ほんまに今。
たまたま松永が助けを求めた相手が、
たまたまソコに居た梢だった時だった。


