そういう経緯があったから、彼の中では私は『危なっかしい』という位置づけなのだろう。



言われても、反論しようがない。



落ち込んでいる場合じゃないと、私は気を取り直す。



「わ…私、あの時からずっと好きでした。

お付き合いして、いただけないでしょうか?」



手提げからチョコレートの箱を取り出すと、下を向いたまま差し出した。



心臓が爆発しそうで、メガネ越しにある彼の目を見ることができなかった。



「うわー、羨ましい!」



「即答でOKしろよ。」



そんな周りのざわめきは、自分の鼓動が煩すぎて私の耳には入らなかった。



だけど、彼は沈黙したままで…。



その時間が、怖くて仕方なかった。



暫くの沈黙の後



「あの…さ、いきなりそう言われても…。」



頭を掻きながら、困ったように彼は言った。



「そう…ですよね、困りますよね?」



泣きそうな気持ちになったけれど…



「俺、キミのことよく知らないし、付き合うとか考えらんない。」



その言葉を聞いて、ここで泣き出すのは彼を余計に困らせるだけだと思った。



彼の言うことはもっともで、知らない子と付き合うなんて無理な話なのだから。



「はぁ?相手は聖女だぞ、OK以外の返事するかぁ?」



「彼女欲しいって言ってたくせに、告った女の子…しかもお嬢様を断るか?」



「お前、目の前にいるの聖女の乙女だって分かってる?

メガネ変えた方が良いんじゃねぇの?」



今度は、周りの声が耳に入った。



その口振りでは、聖アグネス女学園の生徒であれば誰でも良いとでもいうのだろうか?



私は、そのように思われることは嫌だな…そう思った。



その点、目の前の彼は少なくとも誰でもいいと思っているわけではないのだから、断られても好感が持てる。



好きになったのが彼で良かったと、心から思えた。