またね、といって廊下を進み、階段を降りる前に振り返る。


彼は、心配そうな……そして寂しそうな顔で、手を振ってくれた。


私は精一杯の笑顔でそれに答え、思い切って足を踏み出す。


階段を早足で降りた。


アパートの前に横付けされているタクシー。


自動で開いた後部座席の扉の中に飛び込んで。


「駅までお願いします」


かしこまりました、と運転手さんが事務的に応えた。


ゆっくりと遠ざかるアパートを、私は振り返らなかった。