声は少し大きくなった。気がつけば野次馬の最前列に来ていた。大伍はもうパトカーに乗せられそうだ。なんとしても阻止しなければならない。この父親の気持ちだけは傷の男の中にもあった。気持ちが同期する部分だけは、体の動かし方がスムーズだ。
「ううけけけけけああああ。」
猛然と走った。とても五十歳を超えた男の動きとは思えない。五十メートルほどあった警官達の距離を、一瞬でゼロにした。
「な、なんだ?」
警官達は突然の出来事に対応できない。
「きゃあああいいいぃぃぃぃぃう。」
大伍の隣にいた警官に拳を振り下ろした。骨の砕ける音がした。男の拳と警官のあご、両方の骨だ。警官はそのまま道路に叩きつけられた。
「き、貴様・・・何のつもりだ。」
「うりりりりぃぃぃぃぃぉ・・・。」
叫んだ警官も同様に殴り倒す。首が九十度に折れ、そのまま倒れた。
そこではじめて大伍は気がついた。自分の置かれている理解できない状況。
<な、なんだ・・・。と、父さん・・・?>
そこにいる男は確かに父に似てはいるが、別人にも見える。頬の傷がそれを示している。それに気がついた。そして、もう一つ気がついた。手首に伝わる冷たい感触。腕を動かすとこすれて痛かったりもした。
<これ?>
記憶が飛んでいる。何故、自分はこうなったのか?自身に問う。しかし、答えは空白だ。何もない。
ただ、大伍がそう考えている間も惨劇は続いていた。顔に血が数滴飛んできた。
<助けようとしてくれているのか?>
戦い続ける背中は、大伍にはそう見えた。