角を曲がると、大伍の家は塀に隠れ見えなくなった。そこで男の刑事が言った。
「なんとか尾行を開始できたみたいです。」
「そうですか。」
「そちらの様子はどうでしたか?」
男は無線で話していたから、母親と女の会話を一切聞いていない。興味津々といった風に聞いた。
「何か知っているみたいね。でも、詳しくは知らないって感じでもある。だから、母親のセンからいくより、尾行している山本君達の報告を待った方がいいかもしれないわね。」
女は所謂キャリア組というやつだ。母親は無事にやり過ごしたつもりかも知れないが、実はすべてお見通しだったわけだ。
「やはり、クロですかね?」
「わからない・・・。目撃者の話ではホシは顔に大きな傷があるって話だけど、さっきすれ違った時に顔に傷あった?」
「いえ、なかったです。」
「そんな大きな傷、一日やそこらで治るはずがない。と言うか、仮に治ったとしても大きな跡が残るはずよ。でも、それ以外はまるで同一人物のような口ぶり・・・。これが何を意味するのかしら?」
「さぁ・・・。」
男はたたき上げの刑事という感じだ。もっとも、それは風体だけで実際に手柄を立てた事などない。いつも押せ押せの捜査で、却って現場を混乱させる。だから、出世もせず後から入ってきた女がいつの間にか上司と言った有様だった。
「はぁ・・・。もう少しがんばらないとダメよ。」
「申し訳ありません・・・。」