男を見送っても、大伍はまだベンチに座ったままだ。どうしても腑に落ちない。何かが引っかかるのだ。しかし、それがわからない。どうやってもわからない。しかたなく、頭を悩ませながら家路につく事にした。
家についても考える事は同じだ。何故かあの財布が気になる。風呂でも入れば気分転換にもなり、何か思いつくかもしれない。そう考え、風呂場に向かいシャワーを浴びた。
「痛っ。」
腕の辺りが激しくしみた。
「な、なんだ?」
完全に忘れていた傷だ。まだ治っていないところがあったようだ。同時に公園で見た忌まわしい景色が思い出される。女の死体。その周りには女が持っていたのだろう、鞄やその中身が散らばっている。大伍は驚愕した。偶然なのか。いや、こんな偶然があるわけはない。女の鞄の中から財布が顔を覗かせていた。紫色の財布だ。ベンチで見た紫色の財布と同じ財布だ。
「あの人が持ってたのと・・・同じ・・・?」
と言っても、どうにか出来るわけはない。なぜなら死体はどんなに記憶に鮮明に残っていたとしても、大伍の夢なのだ。夢の中に財布が出てきたからと言って、男が女を殺したと言う事もないだろう。くだらない。大伍は思いこむ事にした。とてもくだらない夢を見て、現実と夢の区別がつかなくなったのだ。
夢と現実の狭間を、大伍は浮遊しているように感じた。