再び自動ドアが開く。そこを彼女は小走りに抜けた。そして、エレベータを待つ。ホールには彼女しかいない。少しの間、エレベータを待つ。パンの匂いがホールに拡がる。彼女はこれが好きだった。全身がいい香りに包まれ、ささやかな幸せを感じる。
「うーん、いい匂い。」
大きく息を吸い込んだ。
そんな事をしていると、エレベータがやってくる。それに乗れば、極上の時間まであと少しだ。もう、お湯は沸かしてある。最高のパンとおいしい紅茶でまったりとした昼食が楽しめる。そう思っていた。
バッグから鍵を取り出す。カチャリと音がする。内廊下のマンションだから、その音が響く。
ホールには誰もいなかった。エレベータにも誰もいなかった。そして、このフロアの内廊下にも誰もいないはずだった。それなのにだ。いた。鍵を開けるのと同時に口を塞がれ、彼女の部屋に押し込まれた。
<ひっ。>
仮に口を塞がれなかったとしても、声を出す事など叶わなかっただろう。それくらいに怯えていた。震えが止まらない。涙も止まらない。
上がり框に足を引っかけ、もつれるように倒れた。倒れないようにと男の手にしがみつく。しかし、男の手に傷を付けただけで、そのまま腰を強く打った。
<だ、誰なの?>
見た事のない男だった。頬に傷がある。
<誰?>
もう一度、考える。しかし、まったく見覚えのない男だ。彼女は恐怖した。何者なのかわからない者とこの状況。どう考えても普通の状況ではない。かなりまずい状況と言っていいだろう。
<た、助けて・・・。>
なんて役に立たない口だろう。大きな声をあげて助けを求めたいのに、声を体の奥深くに押し込めたままだ。
男は何も言わなかった。ただ、その目は興奮していた。性的欲求を満たしたいと言う獣の目。それだけで彼女には十分伝わった。
<殺される。>
そう思えば思うほど、体は自由を奪われる。男の眼力に心が鎖で縛られる。
「うーん、いい匂い。」
大きく息を吸い込んだ。
そんな事をしていると、エレベータがやってくる。それに乗れば、極上の時間まであと少しだ。もう、お湯は沸かしてある。最高のパンとおいしい紅茶でまったりとした昼食が楽しめる。そう思っていた。
バッグから鍵を取り出す。カチャリと音がする。内廊下のマンションだから、その音が響く。
ホールには誰もいなかった。エレベータにも誰もいなかった。そして、このフロアの内廊下にも誰もいないはずだった。それなのにだ。いた。鍵を開けるのと同時に口を塞がれ、彼女の部屋に押し込まれた。
<ひっ。>
仮に口を塞がれなかったとしても、声を出す事など叶わなかっただろう。それくらいに怯えていた。震えが止まらない。涙も止まらない。
上がり框に足を引っかけ、もつれるように倒れた。倒れないようにと男の手にしがみつく。しかし、男の手に傷を付けただけで、そのまま腰を強く打った。
<だ、誰なの?>
見た事のない男だった。頬に傷がある。
<誰?>
もう一度、考える。しかし、まったく見覚えのない男だ。彼女は恐怖した。何者なのかわからない者とこの状況。どう考えても普通の状況ではない。かなりまずい状況と言っていいだろう。
<た、助けて・・・。>
なんて役に立たない口だろう。大きな声をあげて助けを求めたいのに、声を体の奥深くに押し込めたままだ。
男は何も言わなかった。ただ、その目は興奮していた。性的欲求を満たしたいと言う獣の目。それだけで彼女には十分伝わった。
<殺される。>
そう思えば思うほど、体は自由を奪われる。男の眼力に心が鎖で縛られる。


