傷の治りかけと言えばいいのだろうか。小さくみみず腫れのように、左頬が膨らんでいる。どこかで見たような顔だが、誰か思い出せない。しいて言えば、大伍に似ている気がするが、大伍の頬に傷などない。他人のそら似という奴だろうか。
視線が定まらない。立ち姿は普通なのに、どことなく挙動不審だ。
「しゅうううう。」
小さな声だが奇声をあげている。しかし、それに気がつく者はいない。やはり、昼間は視線が少ないのだ。
その前を彼女が通った。パンのいい匂いを漂わせ、小走りに走り去る。二人が交錯した瞬間だった。