夕食の時間だとは、大伍に伝えた。しかし、深い眠りのせいで声は届かなかったようだ。しかたなく母親は夫と二人で夕食を取る事にした。
「大伍はまた寝ているのか?」
おとといも昨日も同じ感じだ。だから、父親がそう言うのも当然だった。
「はい、一応ご飯だとは言ったんですけどね。たぶん、昨日みたいに変な時間に起きて、適当に食べるんじゃないんですかね・・・。」
なんとも寂しそうな言い方だ。
「そうか・・・。しかし、あいつは何しているんだ?」
「さぁ、何してるんでしょ?ただね、お父さんが帰ってくる前に、あの子がこれを渡してくれたんですよ。私、うれしくて・・・うれしくて・・・。」
母親が取り出したのは、しわくちゃの一万円札だ。しわくちゃなまま手渡したのは、大伍なりの照れ隠しだろう。
「こ、これは?」
「何も言ってくれないんですけどね、どうもアルバイト始めたみたいなんです。」
「大伍がか?」
父親は信じられないと言った風だ。
「私も驚きましたよ。何をやっているか教えてくれなくても、自発的に・・・あの子が何かをしようとした事は確かなんです。だから、私は何も言わずにあの子を見守ってやりたいって思っているんです。」
「そ、そうか。」
父親はそれだけ言った。と言うより言えなかった。喉の奥が熱くなるのを感じ、それ以上何も言えなかったのだ。