昼下がり、遅めの昼食を取る事にした。と言っても、持ってきた菓子パンをひとつ頬張っただけだが・・・。
そこまでは覚えている。クリームパンの味が、まだ口の中に残っている感じがする。なのに、そこから先がまったくだ。何があったのだろう。気がつくと、空はオレンジ色に染まっていた。
「お疲れ様でした。」
男は大伍の背後から声をかけた。だから、大伍が眠っていたとは思っていない。そして、大伍は幸いにして、夢の中でも働いていた。寒いのを我慢し、ベンチにひたすら座っていた。だから、急に声をかけられても、それなりに答えられた。
「あ、いえ・・・。」
夢と現実が同期する。
「どうでしたか?今日は初日でしたが・・・疲れましたか?」
「だ、大丈夫です。」
寒さは体力を奪う。それにこんな仕事を引き受けた事は後悔していたはずだった。なのに、そうは言えない自分がいた。と言うより、この答えを言っている大伍の方が、本当の大伍の姿なのだろう。どんなに世間に反抗しようとしても、根はまじめなのだ。真摯に物事に取り組む、そんな男なのだ。
「そうですか、もしかしたら、明日は来ないとか言われるのかと思ってました・・・。では、明日もお願いします。」
しまったと思ったが、引くに引けない。
「よろしくお願いします。」
男は背広の内ポケットから、長財布を取り出すとそこから五万円を取り出した。
「はい、これが今日の給料です。」
「えっ、こんなに・・・。」
「それだけの仕事をしてくれましたからね。昨日、言い忘れましたが、給料に関してはその日の働き具合で決めさせて下さい。だから、いい日もあれば悪い日もある。今日はわりといい日だと思います。だから、これだけ受け取って下さい。」
言葉の真意が今ひとつわからなかったが、別にくれると言うのだから貰っておこう。そう思い受け取った。その時、札の一枚に赤いシミが付いていた。それが大伍の親指に付いた。ただ、オレンジの世界では、赤いシミは存在を誇示できずにいた。そして、そのまま大伍の財布へと消えていった。