「河太郎(がたろ)、よせ!」
馬の蹄の音が、二人の背後に迫り何者かが叫びながら馬を飛び降りこちらへ駆けて来る。
声の主は、一総だった。
焔は、朦朧とした意識の中視線を彼に向けた。
彼女の黒い瞳にはこちらへ駆け寄る一総が顔から鬼面を無造作に剥ぎ取る姿が映った様に見えた。
だが、その真偽を確かめる間もなく焔の視界は闇に包まれ、意識はぷっつりと途切れた。
ずっ
一総に河太郎と呼ばれた水鬼は、彼の制止に耳を貸さず焔の体を引いた。
「河太郎!」
一総は、無我夢中で焔の体を抱きかかえると渾身の力を込めて陸へと引き上げた。
ずずずっ
ずぽっ
焔の左手から、河太郎の水掻きの付いた手が外れ彼の上体が傾いだ。
その隙を突いて、一総はもう一度焔の体を引いた。
ずずっずぼずぼ
すると、河太郎の腕は彼の体から音をたてて抜け、焔の右手を掴んだまま一総の元へ引き摺られていった。


