妄想ホワイトデー《短編》

家に着いて部屋に入ると、ベッドの上に転がる枕を抱きしめた。


「歩ちゃ〜ん!」


14日に備えて、キスの練習でもしておこうかな。


くだらないと思われるかもしれないけど、歩ちゃんにもっと俺を好きになって欲しいから。


キスだって…。


下手よりは上手いほうがいいに決まってるよね?



『雄大くん、キス…上手いんだね。もう一回…してほしいな…』


『全く…歩ちゃんは甘えん坊だな。さあ、もっとこっちへおいで』


『雄大くん…』


『歩ちゃん…』


俺は目を閉じた歩ちゃんのくちびるに、少しずつ近付いていく。


そして………。





ガチャ!!


「お兄ちゃん。お母さんが、早くお風呂に入りなさいって。………なにやってんの?」


「なんだよ、ノックくらいしろよ」


「だって何度も呼んだんだよ?…ん?お兄ちゃん…鼻血出てる!」


「わっ!またか!?」


「はぁ?またかって?」


「いや、いいんだよ!ティッシュつめときゃ大丈夫だから。さっきちょっと、ぶつけちゃってさぁ」


「えぇ〜、お兄ちゃんドジだね…。大丈夫ならいいんだけどさ。」


そう言うと妹の麻里はドアをバタンと閉めた。




はぁ…。


何やってんだろ…俺。