妄想ホワイトデー《短編》

俺はその場に立ちすくんだ。




歩ちゃん。


用事って…。


この事だったの?




俺の様子がおかしいことに気付いた菊地と京子ちゃんが、俺の視線の先を見る。


「荒川…もしかして…」


「荒川くん、あの子が彼女なの?」



俺は二人の質問に答えることができなかった。


顔はカッと熱いのに、指先は冷たく痺れている。


息をする度に、肩が大きく上下する。




「ごめん。悪いけど、俺…帰るよ」


俺はそう言い残すと、クルリと向きを変えて、歩ちゃんとは反対方向に歩きだした。


ポケットに手を突っ込むと、ペンダントの入った箱に触れた。


俺…今、最高に格好悪いよ。


俺は歩ちゃんのために…。


歩ちゃんのために…これを選んだのに。


その間、歩ちゃんは何をしていたの?