(……それにしても……
「おられる」、だなんて。何でそんなに仰々しい言い方を…?)
……って、そうじゃなくて!
「あんた、何でオレの名前……っ!」
思わず立ち上がりかけた時には、男はもうこっちに背中を向けていた。
「おいっ!何なんだよ、これ!」
男は振り返らない。
「待てってば!自分の名前くらい・・・・・・」
「17時」
やっぱり振り返らないまま、男は少し声を張って言った。
「遅れるなよ」
追いかけようとするオレを牽制するかのようにそれだけ言って、真紅の髪はそのまま夜の中に溶けていった。
ロクス=ラ=エル。
そう綴られた紙の裏には、ものすごく簡素な地図とローマ字で書かれた住所。
何度か利用したことのある駅の近くだから、迷うことはないと思う。
得体の知れないギタリストだった。
プロ、ではないと思う。
でも、こんな展開もあるんだと思うと、やっぱり心は躍った。
バンドを抜けて、すぐに拾われて。悪い気はしない。
一人の部屋で、オレはいつまでもその紙切れを眺めていた。
