準備を終わらせ、余裕をもってマンションを出た。


今日はちょい曇り気味、太陽が出てないけどちょっと涼しいからまぁいいか。


マンションと学校の中間地点、そこの道路で女の子が自転車の前に座りこんでいた。


「どうしたの?あ!森 木乃香(このか)さん?」


「あ、風羽君…」


森 木乃香、図書委員確定ともいえるほどの読書家。ホームルームの時も自己紹介の時以外ずっと本を読み、放課後すぐに図書室に行った猛者だ。髪は黒のセミロング、度の厚い眼鏡をかけているが、顔立ちはかわいい方。


「チェーンが外れちゃって…」


自転車のギアとチェーンが見事に分離していた。これは女の子には直しづらい、オイルがつくからだ。


「ありゃりゃ、代わって。このタイプなら簡単に直せるから。」


「え、でも…」


「いいからいいから。」


袖をまくり、手際よくチェーンを直す。真剣な俺の顔に木乃香は見とれていた。


「よし、直った。」


ペダルを回すと軽快でしなやかな音がした。


「あ、ありがとう…。手が…」


「ん?あぁいいよ別に。」


オイルのついた手は所々黒くなっていた。


「あの、これ使って。それじゃ、ありがとう。」


黄色のハンカチを渡され、木乃香は自転車に乗って先に学校に行った。