憂鬱な姫君 (姫シリーズVol.5)

それでもココは顔を上げることができないままだ

「じゃあココちゃんも行こうか?」

ココは引っ張られるようにその場を後にし、皆について行ったのだったが、レストランについてもお皿のものはほとんどなくならない

自分がこんなテンションじゃあ空気が悪くなるとわかっていても、どうしても顔を上げて笑うことができなかった

「すみません・・ ちょっとトイレに・・」

ココは逃げるように、トイレに駆け込んだ

洗面所でボーっと手を洗っているところへスタッフの一人がやってきた

そんなに話したこともない人だったので、ココは軽く会釈をしたのだが

「目上の人にその挨拶って、やっぱり子どもなのね」

その言葉に驚くココ

「あんたが何の連絡もなく、時間通りに来なかったからどれだけの人に迷惑が掛かったと思うの? ホテルの支配人にあんたの部屋あけてもらったり、あんたを探しに行くつもりでレンタカーの手配したり・・ 北斗さんになんて言われてこのロケに来たか知らないけど、ここはお子様の遊ぶところじゃないのよ?」

ココはスタッフの言葉に顔を上げることが出来ない

「サラブレットだかなんだか知らないけど、結局は親の七光りなんじゃない・・ 今回はお客様だから私たちもそれなりにあんたに接したけど、もう少し自分の立場ってものを理解した方がいいと思うわよ? 北斗さんには私から言っておくから、さっさと部屋に戻りなさい」

言いたいことを言い終えたのか、その女の人はさっさとトイレを出てしまった

槍のようにココに突き刺さった言葉に、必死にこらえていた涙が頬を伝っていく

ココは顔を隠すようにトイレを出て、誰にも見られないうちに部屋に戻るのだった